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大阪高等裁判所 昭和61年(ラ)131号 決定

抗告人 有限会社エフ・シー コトブキ大正店

右代表者取締役 中川日出男

右代理人弁護士 小林保夫

相手方 株式会社お菓子のコトブキ

右代表者代表取締役 細谷行雄

大阪地方裁判所昭和六〇年(ヒ)第二五三号検査役選任申立事件について、同裁判所が昭和六一年三月二四日にした検査役選任決定に対して、抗告人から即時抗告の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

一、原決定を取り消す。

二、相手方の本件検査役選任の申立てを却下する。

三、申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は主文一、二項同旨の裁判を求めるというにある。

当裁判所の判断

1. 一件記録によれば、次の各事実が認められ、これらの認定に反する資料はない。

(一)  抗告人は、洋菓子、和菓子類の販売等を目的として昭和五二年七月一六日設立された社員二名の有限会社であり、資本の総額一八〇〇万円、出資一口の金額一〇〇〇円、出資総口数一万八〇〇〇口である。相手方は抗告人の資本の一〇分の一を超え一〇分の九以上の一万七六〇〇口を有する社員で、他の一名の社員は抗告人代表者(出資四〇〇口)である。抗告人の定款によれば、営業年度は毎年六月一日から翌年五月三一日までの年一期とし、定時社員総会は毎年七月に開催する旨定められている。

(二)  抗告人は、肩書地に小売店を設け、代表者が妻と二名のパート女性を使い、すべて株式会社コンフエクシヨナリー・コトブキ(以下「コトブキ」という。)から商品を仕入れて販売し、昭和五九年六月一日から同六〇年五月三一日までの事業年度において欠損を出していたが、その後も右仕入代金が毎月約一六〇万円ないし一八〇万円であるのに、売上高は毎月約一八〇万円ないし二〇〇万円、必要経費は毎月約八四万円であったため、赤字が増加していた。そして、抗告人は、コトブキに対し、同年五月から同年七月までは右仕入代金のうち毎月約一〇〇万円の支払をしていたが、同年八月以降は毎月約五〇万円しか支払わず、同年一一月一一日現在、コトブキに対する買掛金残債務は一二四二万八〇〇〇円に達した。右の結果、抗告人は、毎月約五〇万円ないし六〇万円の余剰金が生ずることとなり、これを取引金融機関である大阪第一信用金庫大正橋支店に当座預金として留保していたが、本件検査役選任申立があったのちの同年一二月一七日コトブキに対し買掛債務の内金二〇〇万円を支払った。

(三)  抗告人は、がんらい相手方のチェーン店の一つであり、コトブキは相手方の関連会社であるため、抗告人の買掛債務が累積しているにもかかわらず、コトブキは抗告人に対する販売を継続するという通常とは異なる取引が行われてきた。以上のような関係で、抗告人は、前記コトブキとの取引開始後、毎月顧問税理士由岐透に対し、現金出納帳、当座取引帳、各種領収証、当座預金勘定照合表、仕入先コトブキの請求書を呈示し、同税理士は、これらの計算書類等に基づき前記コトブキに対し、抗告人の月次の損益計算書、貸借対照表、利益進行表を作成して毎月報告するほか年次決算報告書、法人税確定申告書も報告してきたもので、同税理士は相手方の顧問でもあり、相手方は、常時コトブキないし同税理士から右報告内容を知らされ、抗告人の経理全般につきその内容を掌握していた。

(四)  抗告人は、毎年七月に定時社員総会を開催すべきところ、過去はもとより昭和六〇年七月の定時社員総会を開催しておらず、したがって、計算書類を右総会に提出して承認を求める手続がなされていないが、相手方は、抗告人の計算書類ないし財産の状況を熟知しているためか、かつて抗告人に対し社員総会の開催を要求したこともない。

2. 相手方の本件検査役選任申立は、一件記録によれば、抗告人が前項(二)記載のように売上余剰金を社内に留保したことに端を発するものと認められるところ、抗告人がその陳述に代え原審に提出した昭和六〇年一二月一六日付意見書によると、抗告人がコトブキに対する債務の弁済をせず右余剰金を社内に留保したのは、抗告人がその経営を改善する方法を提言するにもかかわらず相手方が応じないため、これに対する抗議の手段として行ったというのである。ところで、抗告人の右にいう抗議の手段の当否は暫く措き、さきに認定したとおり、抗告人が右余剰金を他の不当な目的のため流用することなくそのまま当座預金として社内に留保し、本件申立後とはいえ右余剰金相当額の二〇〇万円をコトブキに支払った経過に照らせば、抗告人において、売上高から経費を差引いた残額すべてを仕入代金債務の支払に充てず、その余剰分を一時社内に留保したことをもって、業務の執行に関し不正の行為があったものとすることができないのはいうまでもないし、他にかかる不正の行為があったことを認めるに足りる資料はない。

また、抗告人が前記のように定時社員総会を開催せず、計算書類を右総会に提出して承認を求めなかったことは法令もしくは定款に一応違反するところであるが、前記認定のように、相手方が常時抗告人の経理内容を知る機会を与えられていた本件にあっては、右の定款違反が検査役の選任を求めうるほど重大なものであるということはできず、他に右定款違反につき重大な事実の存在を疑うべき事由を認めるに足りる資料はない。

3. 以上によれば、本件検査役選任の申立ては理由がないものといわなければならない。よって、本件抗告は理由があるので原決定を取り消し、相手方の検査役選任の申立てを却下し、申立費用及び抗告費用は相手方に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 奥輝雄 杉本昭一)

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